【対策法】 老人ホームへの入居を嫌がる場合はどうする!?
現在の日本の高齢化率は、どのくらいか知っていますか?
総務省統計局が行った調査によると、総人口に占める高齢者人口の割合は、1950年の4.9%から一貫して上昇を続けており、2022年9月15日現在ではなんと29.1%に到達したということが分かりました。特に2022年に団塊の世代が75歳を迎え始めたことから、後期高齢者と呼ばれる75歳以上の高齢者の総人口に占める割合が、初めて15%を超えました。総人口は前年に比べて82万人も減少しているのに対し、高齢化率はますます加速していくことが予測されています。
高齢化が進むということは、高齢世帯だけで生活する人が増えるということですが、家での生活や介護が難しくなった場合に、強い味方となってくれるのが老人ホームです。
今回は、施設入所を検討し始めた際に起こるであろう『本人による入所拒否』について、その原因と対処方法をご紹介したいと思います。
老人ホームへの入所を嫌がる理由ってなに?
①住み慣れた家から離れたくない
人間は、歳を重ねれば重ねるほど、環境の変化への適応が難しくなります。住み慣れた家で、顔なじみの近所の人や友人に囲まれ、自分のペースで暮らしていきたい、というのは誰でも思うことです。特に持ち家である場合は、建てるときの苦労や家族の思い出が家に残っているため、なかなか入所への覚悟ができなくなります。また、自由に暮らしていた人にとって、家族ではない他人との共同生活はストレスが溜まるものです。住み慣れた家で最期を迎えたいというのは自然な欲求なのです。
②老人ホームに対してネガティブなイメージを持っている
介護保険制度が発足されてから、高齢者の施設を取り巻く環境は大きく改善され、可能な限り個人のニーズに対応してもらえるようになりました。
しかし、以前の老人ホームは「自由がない」「強制的に集団生活を送らされる」「暗くて陰鬱」というネガティブなイメージを世間一般には抱かれており、そのままの感覚でいる高齢者もとても多いのです。そのため、現在の老人ホームに関する情報がないまま家族から老人ホームへの入所を打診されてしまうと、「そんなひどいところに入れようとするなんて!」とショックを受けて、入所を拒否されてしまうのです。
③そもそも介護を必要としていない
高齢者の多くは自身の老化に対する許容ができず、「自分はまだまだ元気!」「たまに失敗しちゃうけど、たまたまだから大丈夫!」と楽観的にとらえている方はとても多いのです。実際に介護や見守りをしている家族からすれば、「何を言っているのだろう」と思ってしまうのですが、自分のできないこと、老化を受け入れることは本当に難しいのです。家族がしている介護のことも、自尊心を保つためにも「勝手にやっている」と思っている場合もあります。
入所前にやるべきこととは
①施設の見学を家族だけではなく本人も一緒に施設見学に行く
誰でも、自分の住環境や今後を勝手に決められることは嫌だと思います。本人からの拒否が激しく、不穏になる場合は除きますが、なるべく一緒に施設への訪問、見学ができることが望ましいです。取り寄せたパンフレットを一緒に見たり、施設に入所している人の話を聞いたり、本人が乗り気であれば体験入所してみるのも良いですね。老人ホームはどんなところなのか、どんなレクリエーションを楽しめるのか、生活リズムはどうなのか等の正しい情報を知ることによって、ネガティブなイメージを払拭するのです。自宅にいるよりも楽しみが増えることが分かると、自然と老人ホームを利用したい気持ちになるかと思います。
②家族の想いを本人に伝える
人間は歳を重ねれば重ねるほど、環境の変化への適応が難しくなると前述にもありますが、老人ホームへの入所によって自分の生活基盤が変わるかもしれないという高齢者の恐怖は計り知れません。また家族側も継続的な介護が難しいなど、様々な事情から悩みに悩んで老人ホームを本人に打診していることだと思います。本人を大事に想う気持ちがあるからこそ、安全でお互いに安心して生活することができる老人ホームを勧めているのでしょう。
その相手を大事に想う気持ちを、ぜひ家族から直接本人に伝えてあげてください。「大切な人だから、より安全な環境で生活してもらいたい」「長生きしてもらいたい」という気持ちをしっかりと伝えた上で、本人の不安な気持ちに寄り添い、共感を持って話し合いをすることが大切です。
③施設と連携する
本人が拒否していても、家族が「ここなら入所してもいいな」と思う老人ホームがある場合は、施設の相談員に本人が入所に乗り気ではないが家族が希望していることを相談してみましょう。そもそも、本人が入所に前向きなことは少ないため、介護施設のほうからもこれまでの経験を踏まえた上で、本人を説得するためにはどうしたらよいのかを一緒に考えてくれます。プライドの高い男性の場合など、家族からの提案は拒否するけれども、相談員やケアマネジャーなどの専門職の話には耳を傾け、受け入れることは良くあることです。
また、その時の職員の対応によって、自分に合った良い施設かどうかも知ることができます。大切な家族を預けるのですから、入所を検討する段階から信頼関係を築いていき、相性の良い施設を見極めていくことも大切になります。
④ショートステイなどのサービスを利用する
老人ホームの種類によっては、提供されるサービスや雰囲気を知ってもらうために、正式な入所の前にお試し入所を実施しているところもあります。実際に体験してみることにより、イメージとは違って楽しそう、行ってみたいという気持ちになってくれる方もいます。
また、短期入居生活介護(ショートステイ)を提供している施設の場合は、定期的に利用しつつ雰囲気に慣れてもらい、入居のタイミングを見計らうという手もあります。百聞は一見に如かず、ということわざにもありますが、悩んだらまずはショートステイで数日でも施設の雰囲気を感じてみるのも良いですね。
どうしても入居を嫌がる場合には
様々な対策をとったとしても、本人の入所拒否の気持ちを変えることができないことももちろんあります。もし入所を拒否している本人を無理矢理入所させた場合、どのようなことが起こると思いますか?
まず、一番大きな影響は家族への信頼が失われ、修復が難しくなることが考えられます。特に認知症状のある高齢者の場合、嫌だったこと、許せないことは強く残り続けます。忘れることもなく、今後の家族関係に大きく影響を与えることになります。また、入所後の生活にも、本人が納得して入所したかどうかで大きく差が出ます。無理矢理入所した方は不穏になりやすく、介護職員への暴力に出たり、帰宅願望が出たりとトラブルが生じる場合もあります。生活に慣れないことで、認知症状が悪化してしまうこともよくあることです。急激にADLが低下してしまったり、興奮を抑えるために向精神薬が必要になったりすることもあります。
このように、本人が納得しないままの無理な入所は取り返しのつかない大きな悪影響を与える可能性が高いことから、同意を得た上での入所が望ましいと言えるでしょう。
まとめ
老後をどこでどのように過ごすのか、それは人それぞれ想いや考えがあるため正解はありません。高齢者や家族にとって、施設に入所するということは人生の中でも大きな分岐点となります。
施設・自宅、どちらを選んでも、後悔することはあるかと思います。事前にしっかりと話し合い、準備をすることによって、後悔はあっても間違いではなかった、そう思えるよう、それぞれの想いを尊重しながらお互いにとって一番良い方法を考えていけるといいですね。